…続き行く絆…
She whom one doesn't know...

それは…ずっと昔の記憶…いたのは…若草色の髪を靡かせた青年。

「くっそ〜…流石に強いな…。」
「君も良い線いってるわ。諸国漫遊に出ているのも納得が行く。」
「あなたに勝つことを目標にしてるんですよ。」
「それが実現したら、歴代皇帝の記憶を継いでる私ってなぁに?」
「いや…過去の知識は伝承が無くとも受け継がれている。今の俺の力がその証だ。」

ひょんなことが縁でアバロン城まで連れてきたベネディクト。
その連れのトモエ嬢。名前から察するにヤウダの出身…彼女が誰なのか、僕は知っていた。

刀を持って息を切らせていたのは黒い装束を纏った蒼白の顔をした少年。
「あ…陛下…。」
「……なんだ。君強いじゃない。」
「…陛下…無茶しすぎです!」
「無茶?クラックスこそお城に居た方が良かったんじゃ無いの?」
「何を言って……。」
「ん、クラックス?ちょっと、ねぇっ!」
「トモエ!僕等はいいから大人達呼んで来て!」
「で、でもお兄ちゃん…。」
「私はいいから早くっ!」

…僕が知らない…陛下の記憶だ…。
そう…彼女の生きていた証が…ここにもある…それに、軽い嫉妬を覚えた…。

「えーっ!あのソウジの妹!?」
何も知らないコウメイが派手に驚いている…無理もない。
何せ、病弱ソウジとはまさに正反対の健康的な女の子だったんだから。
しかも耳元でのベネディクトの一言。
「気を付けろ。下手すると俺より強い…。」
う〜ん。剣の腕前はしっかり遺伝してるらしい…で、リオルはそのトモエと楽しげに会話。
「…アイツ…何者?」
「アバロンに留まるなら何度もよぎることになるよ…そのフレーズ。」

まぁ、そんなこんなで…。
「カンバーランド第二王子ベネディクト。新皇帝への挨拶に伺った。お目通り願えるか?」
顔パス…帝国に支配権を移されているとはいえ実質的にはそれほどでもない。
同盟国とほぼ同じ扱いのカンバーランドだからか…。
「ならわざわざ謁見の間までご足労願い必要は無いな。」
冷たく…低い声。昔の彼の声は、もっと印象が違っていたのだけど…。

「クラックスさん!お久しぶりです!!」
おわ。天下のベネディクトがクラックスに頭下げてる…なんでまた…?
記憶を探る…ダメだ。見つからない。
「ベネディクトか…大人びてきたな…。で、術の方はどうなんだ?」
そう…陛下の記憶の中の…実は二人とも小さかった。
似たようなペースで背が伸びたに過ぎない。
「あなたは相変わらずですね。水の術に関しては順調ですけど、風は土に乗り換えました。」
「…その予測は付いている。天術のほうは?」
「う゛…えーとぉ…。」
なるほど。こっそり術の指導を受けていたのか。
で、リオルもあそこまで人に親しげに接するクラックスは初めて見たのか…コウメイと一緒に唖然。

で、何故かトモエも唖然としている…理由はすぐに解る。
「クラックス…随分変わったわね。」
「え゛…。」
お〜クラックスが顔しかめてるしかめてる。
「あの頃は全然頼り無さそうなお兄ちゃんだったのにさ。バリバリの参謀って感じ。」
「…変わって当然だ…十二年も前の話だ。」
「でもやっぱ童顔は健在だね。うん。お兄ちゃんと同い年にしか見えないのは相変わらず。」
…昔に遡ればクラックスの童顔が如何に幼く見えるかが良く解る…言いたい…言えそうなのは…

「…リオル…実はクラックスね…トモエに出会った頃18だったんだけど、
 ソウジより年下に間違われて子供扱いされたことがあるんだよ。」
…リオルなら…含み笑い一つするのさえ珍しいからと思っていたんだけど…。

ぷぷっ

表情一つ変えずに吹き出した…妙な光景だよな…よくよく考えると…。
「つーかさ、最初男の子だなんて思っても見なかったし。」
あ…クラックスが…俯いて…肩振るわせて…ああ、ベネディクトが焦ってら。
「リィ〜オ〜ルゥ〜…。」
「???」
クラックス…久しぶりにおいかけっこの鬼をやる。逃げるのは当然リオルだ。

「…アイツ…笑うのか?」
「まぁ…いちおう人間だし。」
「なぁんか…滅多な事じゃ表情変わらないように見えたんだけど…。」
「ん〜…いつもはそうなんだよね…。まぁ、その分態度やジェスチャーで結構出るけど…。」
と、言うわけで…暫し見物でも…ん?ここに来た理由なんだっけ?

「あの…サジタリウス様…。」
…僕も、皇帝の記憶と力を継いでいる。たまにはソウジの補佐もする。
気が付けば、僕は皇帝に最も近い存在にまでなっていた。
まさかと真実を予測する人もいる。この権力が役に立つのは…好きなときにソウジに会えるぐらいか。
「どうした。門番A?」
「(その呼び方止めろよ)あそこで倒れられているのは…ひょっとして…。」
「他にいないだろ…。」
そう。視界の端を真っ赤に染めて倒れている人物こそ吐血帝ソウジであることに微塵の疑いも無い。

「ソウジ〜まぁた大臣が休み取っちゃうよ。」
「い…いえ…私も気を付けてはいるのですが…げほげほ。」
ちなみに何時吐血されるかと思えば大臣達のストレスは計り知れない。
「まぁいいや。妹さん来てるよ。」
で、その妹さんは…。
「…お兄ちゃん…お願いだから死ぬ前に跡継ぎ見付けてよ…。」
…何気なく酷いこと言ってませんか?

で、リオルとクラックスはと言うと…。ああ、まずはベネディクトにでも。
「……あの人元気になったな…。」
「そだね。陛下が亡くなったときにくらべたら…。」
「いや…そうじゃなくて…。」
ああ、彼は知らないか。あの直後のこと…。

「昔見たときは…何だか…いつも思い詰めたような顔をしていてさ…。」
「思い詰めた…か。」
継承前の僕なら首を傾げただろう…あの頃の彼は、生き甲斐を持っているように見えたのだから。
でも…その理由さえ今の僕は知ってしまっている…。
「サジタリウス…だったよな?どうした、遠い目なんかして。」
「え、ううん。別に。」
「…ほんとかぁ?」

周りじゃリオルがクラックスに追われてるし横じゃコウメイがそれ煽ってるし、
あまつさえ皇帝陛下は妹に説教されていると来た…。
「大丈夫なのかなこの国…。」
「まぁ、賑やかだし良いんじゃないの。大臣だって皇帝が居ないときのあり方ぐらい心得てるし。」
「だね。そのうち皇帝が居なくてもやっていけるようになるよ。」
…平和な時代になれば…ね。

壮大な記憶を紐解くことなど一夜で出来ることではない。
歴代皇帝の記憶を知ると言うことは、途方もなく長く、それで居て分かり易い本を読むのに似ている。
そして…レオン皇帝の志…統一…そして…帝政の廃止…。
平和な時代になったら、一人の王は不要。彼はそこまで知っていた…。

「お兄ちゃん…一応の跡継ぎぐらい決まってるんでしょうね?」
「え?」
「え?じゃないわよ。何時ぶっ倒れたっておかしく無いんだから!
 万一の相手ぐらい考えているんでしょうね?」
……万一…陛下から見た…僕は…知ってしまっている。
万一ではなく、僕に継がせることを彼女は最初から考えていた。差し違える覚悟さえあった…。
全ての真実を知ることは…甘い想像を許さない重みを背負う…。

「…ヒルト陛下のことを考えていたのか?」
「えっ…?」
ベネディクトの目が…王族のそれに変わっていた。
「…ある偶然から拾った少年が次の皇帝かも知れない…お前達が居ないときに一度来たんだよ。」
「…誰が言っていたの…?」
「その辺の大臣が。そして…彼女自身が昔言っていた…。」
その言葉を…僕は知っている…。

…復讐に囚われた人間が、何時までも人の上に立って良い物じゃないわ…

「……僕が…買いかぶられていただけだよ…。」
裏切ってしまった。彼女は僕に帝位を継がせられるだけの何かがあると信じていたのに。
「…すまん。聞かなかったことにしてくれ。で…リオルはいつまで走ってるつもりなんだ…。」
「クラックスが飽きるまでじゃない?」
そう。まーだリオルはクラックスに追われている。二人とも楽しそうだ。
コウメイは既に飽きているのか傍観者に回っている。

「リオルー。剣の稽古はいいんですかー?」
止まるリオル。行き場のない勢いを制御できずにこけるクラックス。
呆れるコウメイ。焦るベネディクト。驚くソウジ。でもって…。
「…ねぇねぇサジ君。」
「んあ?」
気にも留めていないトモエ嬢。
「皇帝が一個人に剣の稽古なんていいの?」
「ん〜…帝位継ぐ前からのお気に入り…ではあったけどね。」
この時微かによぎった予感は…のちに現実の物となる。