「うああ……やっと着いたのかぁ……」
船が着いた途端、まるでスライムが滑り降りて来るかのように降りてきたベネディクト。
ひょっとしたら船の到着を心から喜んだのは彼なのかもしれない。
「あははは。だっから今まで航路使わなかったんだねー」
逆にトモエは大喜びしている……可哀想なベネディクト。
すぐに立場が逆転するとも知らないで……。リオルは流石に慣れていたのかさしたる変化もなく、
ソウジとタウラスはコムルーン名物の火山の方を神妙な面もちで眺めている。
そう。この船旅、本来の目的は最近多いというコムルーン島の地震の調査。
今はそう揺れてはいないようだけど……
「こーめーっ!!何時から潜んでやがったーっ!?」
……違う方向からの揺れでさっきまで乗ってた船が盛大に揺れた……ってコウメイ?
「俺だっていいじゃねーかーっ!!」
「うるせーっ!!密航者は樽流しだーっ!!」
本当に流された人が居たという記録はないそうな。少なくともティルピッツの代では。
「サジばっかりずるいぞーっ!!」
「あ、なるほど」
待て、それで納得するな船長。
「そう言えばそうでしたねぇ」
「今更送り返せませんしねぇ」
ソウジにタウラスまで……。
「人数多い方が楽しくていいよねー」
「そうそう」
エアにトモエは何も考えて無さそうで……。
「……」
「とにかく……休ませ……」
リオルとベネディクトはそれどころじゃ……って、リオル?
町の方を見つめて……ぱっと見ピクリとも動いていなかった……。
「どうしたの?」
「い、いや、別に」
「……ならいいんだけど……」
と、言うわけで、町に行ってみると……待っていたかのように……。
ぐらぐらぐらぐらぐらぐらぐらぐらぐらぐらぐらぐらぐらぐらぐらぐらぐらぐらぐらぐらぐら。
「地震嫌ぁ〜……」
次はトモエが腰を抜かしていた……。
で、結局密航したコウメイはと言うと……。
「すっげー。火山だ〜」
皇帝直々の計らいで免責されていたりする。
「タンプク今頃嘆いてそう……」
「あ、大丈夫。口実はカンバーランドへの留学だから。10日は気付かない」
「準備はよろしいようで……でもいいの?遊びに来たわけじゃ無いんだよ?」
「大丈夫だって。魔力なら俺の方が腕上だしー」
いやそう言う問題じゃ……って、おーい。
「火は噴いて無いんだ……」
「そりゃあ、年中吹いてたら人住めないって。
それに、百年前の皇帝が凍結の種子で封印していらい火山は活動していないよ」
正確には活動してない……と、言われている、だ。
ソウジ達は町長さん所に事情聞きに行ってるのに……
ベネディクトは船酔いの後遺症だし、トモエは地震で腰抜かしてるし、
エアはあちこち飛び回ってるし、コウメイは観光気分だし、
リオルは……。
「……」
何故かサラマット方面へ向かう船を見送る背中に哀愁を背負っています。
「何かあったの?」
「ん……いや……その……」
珍しい。無口とはいえここまで口ごもるリオルって言うのも。
「可愛い子でもいたのかー?」
「わぁっ!」
「っ!!!!!!!!!!!!!!!」
突然沸いて出たベネディクト。飛び退く僕と……顔を真っ赤にするリオル。
よもや図星だったとは……しかし可愛い子ねぇ……
まあ一般の人も乗せている船だったけど……ちょっと思い当たる節が。
「程良く濡れた海女の女の子に見とれてたとか言わないでよ?」
「……」
顔を真っ赤にして黙りこくってしまった……おいおい。
「諦めろ。こう言うのは一期一会なんだよ……」
「うん……」
あーあ……なんか青春始めちゃってるし……まだ昼なのに夕日が見える……。
「しょーがない……タウラスの所にでも行くか」
おそらくは火山の情報を知らせている場所にいるとは思うけど……。
「タウラス?」
当人は本を片手にどこかをぼんやりと見上げていた。
「タウラス!」
「なんだサジタリウスか……」
心ここにあらず……といった顔ではなかったようだ。
持っていた本は火山のことが記された本ではなかった。
「魔法書?」
「ええ、昔向こうに砦を構えていた魔導師のものらしいです。見てみますか?」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「本当は、火山に関する資料を見て置かないと行けないんですけどねぇ」
僕が本を読んでいる横で皮肉った笑みを浮かべていた。
術士であるし水の術に関しては新たな術を紡ぎだした研究者でもあるタウラス。
こういった事に興味を持って行かれるのは性と言う物なのだろうか。
それを口に出したら職業病だと笑って言った。
「まあ、この病には、本当に大切な物まで見失わないよう勤めるしかないんですけどね」
「二手に分かれて一方は火山と縁の深いサラマンダーの町を、
もう一方は昔火山を沈めるために助力したという魔術師の砦を訪ねようと思います」
8人全員を集めて皇帝が今後の行動を示した。
「魔術師?」
半ばお情けで参加してるコウメイが訪ねる。
「ええ、百年ほど前……
つまり火口に封印を施した時期に研究をしていた魔術師がいたんです。
今は魔物の巣窟のようですが、何か資料があればと思いまして」
百年前の魔術師の資料……ねぇ。
「で、メンバーなんですが……この二人はほぼ決定でしょうかね」
僕も、コウメイも、やはり術士としては興味を禁じ得なかったわけで。
「そんなに目を輝かせなくてもいいでしょうに。魔物の巣には違いないんですよ?」
「はーいエアもそっちがいーでーっす!蒸さない場所がいーでーっす」
「うーん……もう溶岩は冷え固まってしまって蒸してはいないんですけどねぇ……」
「でも灰が舞ってそうでやー」
まあ、それでも分断メンバーは一応……。
ソウジ、リオル、ベネディクト、トモエがサラマンダーの町ゼミオ行き。
タウラス、僕、コウメイ、エアが魔術師の砦行き。
と、言うわけで、行動を開始……したいのだけど……。
「じーしーんーいーやぁ〜……」
「トモエ……んな頻繁に……」
ぐらぐらっ」
「いやぁぁ〜」
トモエがとんでもない状態になってしまっていた。
とんでもないというのは、怯え云々ではなくて……。
「……とりあえずマントで鼻水拭かないでくれ……」
涙でとんでもないことになっていた。
「嫌なら留守番してるか?」
ぐらぐらぐらぐら。
「もっと嫌あぁぁぁ〜」
そんなこんなで引きずられるトモエを見送り僕等も砦へと向かっていく……。
その道中……。
「サジ君サジ君」
横を飛んでいたエアが僕に何かを差し出した。
それは白い布にくるまれていたが、輪郭から見るに弓だろうか……?
「開けてみていいの?」
「いいよー♪」
薄い白い布。それが何故透けなかったのかと思うほどの光がその中には入っていた。
薄い黄金色に輝く弓。両端に青緑色の宝玉があしらわれ、
握りには小さな宝石が適度にあしらわれた美しい細工弓。
だが、それがただの飾りで無いことは、何度か張り替えられたであろう弦の跡から見てとれる。
「星天弓って言うんだよ。星も射抜くって伝説があるんだ」
自慢げに、しかしどこか含みのある笑みでエアが言った。
星も射抜く。そんな伝説のある代物がそう幾つもあるはずはないだろう。
何となく、彼女がそれを僕に渡す理由に思い当たる節があった。
「僕があの人の息子だなんて保証は……」
「似たようなもんでしょ?前例だって無いことないよ」
前例……と言うのはクラックスに腕輪を託した事だ。
弟のような相手だったから……と言うこと。
僕とタウラスの関係は、クラックスとタウラスの関係とよく似ている。
年が近かったから二人は兄弟だった。僕と彼ほどの年の差なら親子……だろう。
「でも、これは僕が貰っていいものなのかい?」
「お蔵入りより良いでしょ?術士向きの弓だと思うよ〜」
そういわれはしたが、タウラスに見つかると少し面倒だと思って、
僕はその弓を再びぐるぐる巻きにした。
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