砦の前に立つエアと、コウメイと、タウラスと、僕を待っていたのは……。
「うわぁ……何というか、本当に魔物の巣……」
目の前にそびえ立つ砦。そこは文字通り魔物の巣窟となっていた。
「ていうか入ったら生きて出られるのかがそもそも微妙な気が……」
外壁に張り付くパイロヒドラ。その上から睨みを利かせるヴリドラ等……。
「結界ぐらい張ってもいいのですけど……流石に効力が切れたのでしょうね……」
上にも色々魔物が飛んでる。下手したら取って食われそうだな。
「まあ流石に内部にまで大丈夫だと思いますよ……はは……」 この乾いた笑いが何を意味するかは言うに及ばず……。
「中の方がよっぽどやばいじゃねーかぁーっ!!」
「こーめー後ろっ後ろーっ!!」
「だーっ!太陽風!熱風!!クリムゾンフレアああああああっ!!」
狭い分余計にぎゅうぎゅうと魔物が巣くってました。
「と、とにかく奥の部屋へっ!!」
ディアブロの爪をかいくぐりヴリドラのとぐろを踏み越え、ガーゴイル像の間をすり抜け……。
「あれ?」
一瞬違和感を感じながらも駆け込んだ先は……。
「……こ、これだけ?」
中央に壺があるだけの簡素な部屋だった。
「砦の規模を考えても少し不自然ですね……。何か仕掛けでもあるのでしょうか……」
「とりあえずこの部屋を……て、あれ?」
「……エア……は?」
気が付くと、一人減っています。
「ま……まさか……」
あの扉の向こうから聞こえるのは、ヴリドラが這う音だったり、ガーゴイルの羽音だったり……まあ静かな方だった……。
それが余計に怖い。
脳裏を過ぎる最悪の事態。
「まままままままままさかまさか……」
「おおおおおい……サジお前なななななな何とか……」
いくら何でもそんなあっさり死んじゃったり……いやそれ以前に何で僕までこんなに同様しているんだ……。
人が死ぬのを見たのは初めてじゃ……いや、まだ生死が解らないから怖いのか……。
「二人とも術酒何本持って来ましたか?」
「え……?」
そして、うろたえる子供二人を余所に冷静な大人一人……。
「ど……どういう……」
「私が行って調べて来ます。ここまで魔物は入らないようですから二人はここから出ないように。命の保証できませんから」
そんな場所によく連れてきたよあんたも。いやそれ以前に……。
「ひ、一人で行くなんて……」
「もちろん」
「え、ちょ、無茶な……」
「じゃ、行ってくるよ」
……そのまま行ってしまった。それこそ小用でも済ませにいくかのように。
「おい……どーすんだよ……いっちまったぞ……」
「いくら何でも無茶な……」
子供らは二人、その場で置いてけぼりをくった。
相変わらず扉の向こうからはヴリドラが這う音だったり、ガーゴイルの羽音だったり……とにかく静かだった。
今し方男が一人単独で突入したとは思えないほどに。
「た……タウラスさん無事かな……」
「いくら何でも戦闘している気配すら無いっていうのは……」
そう。本当に静か。それこそ何も起こっていないかのように……。
「……あ、霧隠れ使えばひょっとして!」
「ドア開けるときに切れる。僕等にドア開けさせるにしたって視認できないから無理があるよ」
等と、子供らが知恵を絞っているところに……。
「た〜だいま〜」
間延びした声が響く。
「まったく……気配も何もわからないわけだ……ここのからくりがお陰で解りましたけどねぇ……」
エアに続いてタウラスが出てくる。かなりお疲れの様子で……。
「タ……タウラス……大丈夫だった……の?」
「げっそり疲れたけど……あ、術酒あります……?」
その場にぺたりと倒れてしまった。
「おいおい……大丈夫かよこのおっさん……」
「なんかもうすた〜っとやって来たんだよね。すた〜っと」
心配をかけさせた本人はこのありさま。慌てふためいていた二人は呆れるばかり……。
「とりあえず、ここにずっといるわけにもいきませんし、奥へ行ってみます?」
「……奥?」
「言ったでしょう。からくりが解ったって」
そして、一番労力を消費したはずの人は穏やかに笑っていた。
「で、からくりって何だったんですか?」
「まあ、見ていれば解りますよ」
「エアは?」
「ん〜あたしもさっぱり♪」
期待したのが間違いだった。
「じゃあ、行きますよ」
「え、行くってどうや……うわっ」
全ては、一瞬の出来事だった。突然何かに抱え上げられたと思うと、あの魔物犇めく廊下をそれこそ風のように駆け抜けて行く。
並んだガーゴイル像の間を通り抜けた時、そのからくりが理解できた。
魔物が一瞬にして消えた。そして、自分たちが居た部屋の入り口も。
「これが……からくり……」
「空間転移のようなものでしょうね……どこで得たのか……」
自分たちがいた部屋の扉があった場所には壁があり、右手に通路が見えた。
「どうやら……肝心なものはこの奥のようですね……」
「火山の手がかり、あるといいね」
ただ、この時彼らは一つ忘れていた。
「おい……どーすんだこれ……」
砦の周囲一帯が魔物の巣窟であったと言うことに……。
隣の塔へ向かうための踊り場はヴリドラの巣になっていた。
「タウラス。さっきのもう一回」
「も……もう勘弁して……」
が、先ほどの廊下を考えると大した距離とは思えないわけで。
「じゃあ俺達二人巨大蛇の餌食になってもいいんだね……なんて冷たいんでしょ……よよよん」
「う……」
白々しく泣き真似をするコウメイに……。
「留守番、なんて選択肢を取るつもりは毛頭ないからね」
「やっぱり……」
一歩も引くつもりのないサジタリウス。
と、言うわけで。
「し……しんど……」
死にかけているタウラス。
「しっかしあれってどうやんの?」
それに容赦なく質問を浴びせる子供達。
「ま……まだ……け……研究途上……」
とりあえずここで一休み。
「そのまま寝たりしないでよ」
「寝たら起こして……」
「まだー?」
「あ……後5分……」
と、こんな感じで暫くタウラスが寝坊する子供のようにごろごろしてから小一時間……。
「さて……そろそろ行きましょうか」
「やっとだ〜」
「待ちくたびれた〜」
次にだだをこねるのは子供達だ。
「なら留守番してます?」
『やだ!』
と、小さな塔。こんなやりとりしながら最上階。
「ここって……私室だよね?」
その部屋にあったのは簡素な本棚に簡素な机。
「……あのベッド膨らんでません?」
そして寝ている誰か……。
「ひょっとしてこの砦の魔導師さんですか?」
「まさか……百年も昔ですよ……て、待った!!」
そんな大人の忠告などどこ吹く風とベッドに近づく子供ら。
そして、そんな二人の足下に開く黒い穴。
「サジタリウス!!コウメイ!!」
「え?」
「お?」
気づいたときには……。
「エア!追って!!」
「はいい〜っ!」
サジタリウスとコウメイ。そしてそれを追い掛けるエアの3人が穴の奥へ……。
そして、残されたタウラスの目の前には……。
「人様の家に無断で上がり込むとは……教育がなってませんねぇ」
「な……まさか……」
銀色の仮面。赤いローブ。出発前に書庫で見た文献。
そこから抜け出たような姿の魔術師が一人……タウラスの前にいた。
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