「ぎ、ぎ、ぎ……ギリギリ……」
焼けて熱いはずの地面。しかし、そこに突っ伏さねばならぬほどにその時のリオルは疲弊しきっていた。 火山の火。ぐらぐらぐらぐら火山の火
「こ……この術無かったらアウトだったね……」
同様に、サジタリウスもまた、過度の精神疲労に疲れ果て、トモエに寄りかかり、エアの羽で扇いで貰っている所だった。
ぐつぐつたぎる溶岩に
「じゅ、、寿命が縮むかと思いましたよ……」
そして、若者二人の無茶に、それこそ卒倒してもおかしくないだろうソウジ皇帝。
「陛下……あんたがそれを言ったらこの場で死にそうだから止めてくれ」
「まあ無謀っちゃ無謀だったよねー。おいらじゃなきゃ死んでたよ」
腰まで浸かったサラマンダー。
案内役として彼らに付いてきたサラマンダーのタウ。今リオルがへばっていられるのも、ひとえに彼が炎に強い耐性を持つサラマンダーであったからに他ならない。
そんな一同の視線を浴びてリオルはただ一言。
「……ソウジ……皇帝だし」
そのまま気を失ったリオルを抱えて無事、下山。
そして、ゼミオの宿前。タウラスは先日の無理がたたって寝ていたが……。
「わーい地震も綺麗におさまってるー♪」
何はともあれ、自分たちの戦果を満足げに受け止めているトモエ。
「火の術じゃ俺殆ど役立たずだったし……」
あまり活躍できずにご不満のコウメイ。
「おいらみたく火に強いわけでもないしねー」
そこにとどめを刺す意地悪なチビトカゲ。
「きっとタウラスの事だからすごく気をもんでると思う……」
「案外帰ってきたとたんなきついたりしてなー」
「また疲れるの……?」
幸いというか不幸と言うか、その不安は外れた。
先日の疲労を押してサジタリウスに術の指導をしていたタウラス。
本来なら今日は一日中寝ていなければならないほどだった彼は……。
「ほうほう……なるほど、こっちの術形態とは……」
「ふむ……流石研究者だけありますな。相反する術の使い手とはいえ興味深い……」
サラマンダーの長老と術の話に没頭していた。
それはもう、待つべき皇帝の出迎えも忘れるほどに。
「あのー……タウー……?」
「ん?あ、ソウジ、もっとゆっくりしてても……」
いや、今にも噴火しそうな活火山でゆっくりもへったくれも無いだろ。
全員がそうつっこもうとしたが、その前に見る見る変わるタウラスの顔色を見て、やめた。
「あ、あ、あーっ!おおおおお、お帰りなさいませ陛下ーっ!!」
おたおたと慌て声を裏返らせ言われてもいないのに土下座をする有様。
これが後2年を待たずに四十路を迎える男なのだからまたおかしい。
この時ソウジがタウラスをなだめていなければ言えたはずである。
皇帝の記憶の中ではこんな研究馬鹿では無かったろうにと。
「タウラス……あの10年間何を楽しみに生きていたのかよく解るわね」
笛とか、将来有望な若者の成長とか、色々あっただろうに、研究が一番楽しかったらしい。
風の乙女との短い、しかし熱い恋い。
それはかれが水術の権威と言われる前の事。
「はは……申し訳ない……ついケルートさんと話が盛り上がってしまいまして……」
だからといってゆっくりは無いだろうゆっくりは。
「あの若さでもうボケが始まったのかな?」
「砦の資料見て研究者魂に火がついたんじゃないかなぁ?」
そう言えば、魔導師の狙いはなんだったのか、実はタウラス意外は知らないまま。
もちろん、好奇心に任せて訪ねて見ても、何かしらの魔導書があったらしいと言う答えしか聞けなかった。
言うはずがない。禁じられた冥の術。そこに、一瞬たりとも故人の帰りを望みそうになってしまったことなど決して。
船出の朝、タウラスがコムルーン海峡に向かって、一人祈りを捧げていた姿は、誰の目にも止まることはなかった。
そして、サラマットのエイルネップに程近い場所にある墓……
「陛下……」
黙祷を捧げる一行。それは、先代、クリームヒルトの墓。
サジタリウスの頬を、滴が一筋通り過ぎる。一同が村に戻ってからも、まだ祈りを捧げていた。
「陛下……ごめんなさい……僕は……」
それは、祈りという名の懺悔。深く、深く。
だから、すぐ横で誰かが祈っているなんて気づきもしなかった。
「あ、リオル……」
目が合うと、お互い寂しげに笑う。それしか、できなかった。
それを、少し距離を置いて見守る影があった。
「やれやれ……辛いですねえ……ああいう光景は」
皇帝と、宮廷魔術師。
「ここで我々が出てしまうのはいささか無粋ですかねやは……がふっ!」
「わー!!陛下ーっ!!」
……そして早速吐血する。
「……何やってんだあの大人二人は……」
「ほっとこ」
そしてその現場をしっかり子供達に目撃とかされていたりする。
ことあるごとに喀血する皇帝を相手にしつつもタウラスは思う。
彼女の墓前に立ったときに、自分に涙する資格があるのかと。
そして……。
「とうとう帰って来ちゃったわね……」
「帰って来てしまいましたねえ……」
南へ下り、ヤウダへ辿り着いた一行。異国文化に興味を抱く子供達とは別に、遠い目をする出身者。
「なータウラス。あの二人どうしたんだ?」
最初に気付いたのはコウメイだった。
「そりゃね、毎度吐血する人が皇帝なったなんて、故郷の人たちが聞いたって大騒ぎでしょ」
「……タウラス……なんか舌鋒鋭いな」
「はは……解ってはいましたけどここに来るのは少々気が……」
「重いなんて言う資格あなたにあるのかしら?」
空から響いてきた、鋭い声。見上げた先にいたのは、深紅の翼を翻すイーリスだった。
「……久しぶりですね。スカイアさん」
「お久しぶり、タウラス」
棘のある声。やもすれば、殺気さえ感じるような声。
「エアからは聞けて?」
「……ええ」
流れる冷ややかな空気。13の少年に「怖い」と思わせるには十分なそれ。
スカイアの一睨みと、タウラスのアイコンタクトで、席を外さざるを得なくなる。
走っていった先は、サジタリウスの所。
「おーい!サジー!」
「あれ、もごもご……コウメイ?」
丁度ヤウダ土産のお団子を食べている所だった。横ではエアがお茶を啜っている。
「ちょ、ちょっとタウラスさんとこ……偉いこと……なり、そうなのかな?」
そう言われて、コウメイの指さす方向を見る。スカイアの深紅の翼はヤウダの碧空によく映えた。それを見て、エアの顔色が羽にも負けぬほぼ真っ青になる。
「ス……スカイアさん……やばいよ……」
「え……?」
「ナディール姉さんと凄く仲が良かったの……だからタウラスの一件の時なんて……」
一緒に青ざめるコウメイ。
「でも、それはあの人が背負う話……いくら何でも流血沙汰にまでは……」
一人冷静に振る舞おうとするサジタリウスだったが……。
「こうなったらサジ君アンタが行くのよ!!」
「え?」
「アンタが姉さんの子だって言えば少しは落ち着くはずーっ!!」
「そ、そんな無茶なーっ!!」
引きずってでも現場へ連れていこうとするエア。必死に柱にしがみつくサジタリウス。
ついでにそれを唖然として眺めているコウメイ。
その頃……リオルとベネディクトは……。
「騒がしいな」
「所詮お子様よね」
「……行ったほうが良いような気が……」
トモエの案内でのんびり異国情緒を楽しんでいた。
「……弁解はしない。何を言っても見苦しいのは解っているからね」
タウラスとスカイア。二人の張りつめた空気の間に……。
「っきゃーっ!!」
投げ飛ばされて来るサジタリウス。一瞬空気が緩む。本当に、一瞬だけ。
「……お子様はお呼びじゃないわ。アバロンには世話好きが多いのかしら?」
話の腰を折られて、露骨に不機嫌になるスカイア。タウラスが空気の緩みを止めたのは、また別な理由だった。
「ええ世話好きですとも。……だから、私はまだ死ねません。弁解はしない。でも、言うべきことはそれだけです」
その言葉に、しばらく何か考えていたらしいスカイア。事の原因を察することが出来ても顛末が解らないサジタリウスにはどうしようも無い。
スカイアに睨まれたときはぞくっとしたが、次の質問で、エアの無茶な要求の理由が飲み込めた。
「その子、何者なわけ?」
手には弓と矢。下手な答えをしたら影縫いぐらいは覚悟せねばならないようだ。
「……タウラスの養子です。魔物に襲撃されて身寄りが亡くなったので世話になってます」
これで駄目なら、少し痛い目見るのは仕方がない。そう思った。
「またそのパターンなわけ……」
冷たい言葉。しくじった。そう思わせるに十分だった。
「坊やは上手く言ったでしょうけど……タウラスの顔に疑問符付いてるわよ」
見上げれば、あからさまに動揺しているタウラスの顔が。
「……ったく、クリームヒルトといいアルマノスといい……アンタ保父さんて認識されてんじゃないの?こないだ手紙よこした子は今どうしてるの?」
それが誰なのか、何となく解った。きっと彼女は知らないんだろう。その手紙を送った当時おそらくはもう30に届いていた人。そして、それから2年足らずして、その生涯を閉じた人の事を……。
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