帝都アバロン
His name is a Sagittarius The Silent boy

その少年が目覚めた場所は、ふかふかもこもこぬくぬくベッド。
荷物をまとめて荷馬車に乗って、今日でミラマーの町とはお別れと、
思った矢先に居た人は、青い顔したお侍。
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!?」
びっくり仰天。壁にめり込まんばかりに後ずさる。柔い布団にずぶずぶずぶ…。
ごっちゃな頭で思い出す。昨夜の悪夢と現実を。

そう…もう…両親はいない…。冷め切っていた家に未練はないと言えば嘘になる。
しかし、変えようのない現実は、受け入れなければどうしようもなかった。
そう…現実。あの恐怖も…あの痛みも…あの…艶めかしい感触も…全て…。
「その様子ならもう体は大丈夫みたいですね。」
侍が人の良さそうな顔で微笑む。それを見て、尚更はっきり思いだした。
目の前で両親が死んでいて…化け物に蹂躙され尽くされたあげく…それから先はうろ覚えで…
覚えているのは、突然の光と、手の平を伝った暖かい何か……。

そうだ…彼等に助けられた。その感謝の感情は、あの現実の確かな証拠。
両親は死んで、自分は助かった…。少し後ずさって広がった視界の端に女性がいた。
そうだ…この人だ…確かこの人…。面識はない。しかし彼女を知らぬ者など限られている。
「でも良かったわ。三日三晩寝通しだったものね。」
「…………三日…も…。」

扉の向こうから青い髪をした軽装の賑やかそうな少女が入ってきた。
「そうよ〜それまでヒルトは何度も様子見に来たのよ〜有り難く思いなさい。」
「ヒル…ト。」
その名を聞き、彼女が皇帝であることを確信する。
後ろには家柄の良さそうな服を着た体格のいい男が立っている。
どっちの顔も知っていた。完全に傷が癒えるまで、意識は途絶えなかったのだから…。

やっぱり現実。いま生きているのも…両親の死も…あの恐怖も…。
睡魔が消えていくと共にあの恐怖が蘇り始める…危機は去った。しかし、恐怖は去らなかった…。
恐い。寒いわけでもないのに体がガチガチと震え始めた。
「はいはい。ギャラリーが多いと安心できませんよ〜。」
更にその向こうから出てきたのは…変な髪型のおっさん。
とは言っても、この中では一番まともそうな性格に見える。

賑やかな風景。きっと付き合いが長いのだろう。
だけど…自分には…もう誰もいない。天涯孤独。
自分がこうなるなんて…思いもしなかった。

「はい。顔見に来ただけの二人は出てった出てった。」
「え〜。」
「だから言ったろうが…。」
「何よ〜っ!マールだって行くって言ってたクセに〜っ!」
抗議も空しくマールと呼ばれた男に引きずられていく少女。
「またね♪」
顔が見えなくなる前にキスを投げられた。
「タンプク〜っ!一生恨んでやる〜っ!」
その直後にこの一言…逆に恐いかも知れない。
「はいはいどうぞお好きなように…。」
どうも機嫌が悪くなるとこう言うタイプらしい。

「ふむ…体の調子はどうですか?クラクラとかはしませんか?」
少年は…頷くだけ。この先を考えたら恐くなってきたのだ。
この先…自分はどうなるのだろうか…とか、色々と。
「ふむ…もう良いみたいですね。んでは、ちょっと食事もって来させましょう♪」
談笑を交えつつタンプクと呼ばれた男も出ていこうとするのを侍が呼び止める。
「ああ、私もお昼まだでしたのでお願い出来ますか?陛下は?」
「私はさっき食べてきたわ。」
「では、一人分追加させて貰いますね。」

残ったのは少年と侍と皇帝。
「大丈夫?」
皇帝に顔を覗き込まれてもう後がないにも関わらず後ずさり。
その顔色は侍も及ばぬ程青かった。必死に押し隠そうとはしている物の歯はガチガチと震えていた。
「…あなた…ひょっとして…。」

一方アバロンの城下。そこを歩くマールとフォックスと…後から追いついてきたタンプク。
町は変わらず活気に満ち、所々では皇帝陛下が連れ帰った少年の話もあった。
「ねぇマール。」
「何だ?」
「いやさ…あの子…すんごく顔色悪くなかった?」
「あの時何があったのか微妙に予想が付いてしまいますよねぇ。
 トラウマ、出来てない方が不思議ですから…。」
「そう言えば良く聞かなかったわね?」
「何をだ?」
「雷の正体…って…あの時のこと思い出させるのも可哀想か…。」
「お前にしては珍しくまともな意見だな。」
「何ですって〜っ!?」
「はいはいお二人とも穏便に、穏便に…。」

「まさか女性恐怖症とはねぇ…こないだのこと?」
少年は頷く。顔を覗き込むクリームヒルト。ここまで接近されると恐いどころでは…

「おや、耳まで真っ赤。」
「慎ましいのは悪い事じゃないけど、女性が恐いのはちょっと問題だわよ。」
「まぁ…先代もかなり怯えていましたけどねぇ…。」
「う゛…。」
実は先代皇帝。アマゾネス達に危うく殺されかけてすっかり女性恐怖症に。
幸い、妻だけは大丈夫だったため家庭に問題は生じなかったとか…。

その頃の大通りでは…。
「ま、あんな可愛い子がいたら良からぬこと考える腐女子がいるのも解らなくはないけど。
 
…あ、アンデッドだからホントに腐ってるか。
『!!!!!!!!!!!!?』
タンプク、マール。超音速で後ずさる。最後の一言は聞こえなかった模様。
「ちょっと待てぇ―――――――――っ!!」
「だって…なぁ…」
「食われたくありませんし…。」
「仮にそうだとしたって誰がそんなごつかったり変な頭&おっさん顔なんて喰うもんかっ!」
ショックを受けるタンプクに一目散に逃げるマール…おいちょっと待て帝国精鋭部隊。

そして…それを窓から見ていたクリームヒルト陛下は…。
「マールバラ給料10%カットと…。」
何処から出したのか帳簿にチェック入れるクリームヒルト陛下。
「せめて7%にして上げましょうよ…。」
「計算が面倒だから10%でいいの。」
これまたさらりと言ってのける皇帝陛下に少年は……。
「………………………。」
沈黙するのみであった。

窓の外から賑やかな町並みが見えた。
自分の知らない賑わい。ミラマーとは比べ物にならない…。
「ここ……アバロン?」
「…そうよ。」
二人が自分に気を使っているのは態度で解った。
皇帝陛下もそうだが…こっちのお侍。ハッキリ言ってバレバレである。
「三日も」と言ったとき、そしてついさっき。バレバレ。びくびくしてる。
隠し事はまず不可能なタイプ。

「僕の両親…。」
あ、もう明らかに焦っている。気は…使っているんだろうか?
「弔いは…もう?」
あ、安堵してる安堵してる。
「…ええ。」
「……有り難うございます。」
その顔と声から、幼さは消えていた。

「そう言えば、あなた名前は?」
「…………サジタリウス…。」
「そう…良い名前ね。私はクリームヒルト。で、こっちの青白いのがソウジね。」
「青白いのって………。」
あ、ショック受けてる。

「お食事を持って参りましたよ。陛下。」
食事を持ってきたのはさっきの男では無かった。白いローブを纏った魔術士。
「ああ、有り難……。」
その顔を見た皇帝の顔色が目に見えて青くなる。
「…げ……クラックス……。」
あ、滝汗が。クラックスにこやかに笑ってます…。
「そろそろ戻って頂きますよヘ・イ・カ。」
「う〜……はいはい…解ったわよ…って引きずるな〜っ!」
そうして襟首掴まれて連れて行かれる皇帝がちょっと可愛く見えた。
「お二人とも血が足りないんですからしっかり食べて下さいね。」
「サジタリウスは女性恐怖症も治しておきなさいよ〜。」

あれが、皇帝?
それが、僕が彼女に抱いた第一印象だった。
まだ……子供みたいに見えた…。
母親と言うほどの年ではないが、かなりの差があるはずなのに…
年の近い、姉のようにも見えた…。

「はいはい。」
陛下とクラックスは行ってしまった。残ったのは私と、少年。
「………………………………………。」
「陛下もクラックスにはかなわないんですかねぇ。」
「……………………?」
明らかにクラックスに対しての疑問符を表情で訴える。
先ほどの一言一言、全部必死で言っていたんですかねぇ…。
「ああ、彼はね、いわゆるお目付役ですよ。いつもあの調子なんです。
 彼も忙しい身ですから、こう言うときでないと町に来れないんですけどね。」
しっかりとこっちを見ている。良かった、人見知りはされていないようです。

『ぐぅ〜。』

「………………………………(゜゜)」
「………………………………(
^^)」
鳴りましたは腹の虫。一秒の狂いもなく同時でした。
「はは…三日三晩寝ていてもお腹って空くんですね。」
持ってこられた料理はレバニラ炒め。なるほど、確かに鉄分は豊富そうだ。
あ、勢いよく食べてますねぇ…三日三晩何もせずに絶食…確かに辛いかも知れません。

その頃のクリームヒルト陛下。
「クラックス放せ〜っ!」
「いーえ、放しません。放して逃げなかった試しがありませんからね。」
「そんなの継承直後の話じゃないの〜っ!何さ究極童顔の三十路男〜っ!」
大通りのど真ん中を引きずられる陛下。見る人はいれど止める人無し。これが日常です。

それを遠目に見ていた古参と新米二人の直属三人は…。
「お〜やってるやってる。アバロン名物皇帝引き回し。」
「クラックスも…いい年して良くやるな。」
「でもアイツさ、なんだかんだ言って城下一回りしてからヒルトの方に行くのよねぇ〜。
 ヒルト連れ帰るのも結局はその口実みたいなもんだったりして♪」
「そうか…しかし…それを差し引いても最近気が短くなってないか?」
「年のせいじゃないの〜?」
「いやそれでも。」
「じゃあ…あの噂はマジって事かな…?」
「噂?」
「そ、ウ・ワ・サ♪」
「何だよそれ?」
「ヒ・ミ・ツ♪」
「待て(怒)」

その頃の病人二人は…レバニラ炒めのお代わりを食べていた。
勢い良く食べるサジタリウス。ヤウダの良家で育ったソウジはゆっくりと。
ソウジはそんな彼を見て思う。両親の死、短い寿命。
形こそ違え受け入れがたい現実を告げられたとき、果たして自分はここまで冷静でいられたろうか?
自分が立ち去ったとき、彼は一人で泣くのだろうか?叫ぶのだろうか…?

「そう言えば、ここに身よりはいますか?」
答えの予測は付いていたが、聞いて置いた。陛下は邪魔が入って出来なかったから。
彼は…力無く首を横に振った。今の彼には、両親やあの時のことより辛い質問だったようだ。
泣きそうな顔をして…それでも…涙は流れなくて…。
もう一つの陛下の伝言を伝えることにした。
「実はね、もうすぐアバロンに新市街地区が出来るんだ。
 多分そこに来る人達はみんな知らない顔同士だから、君もそこに行ってみてはどうかな?」
少年の顔が僅かながら明るくなった…良かった。提案は受け入れられたようだ。