それぞれの日常
The daily life which doesn't change.

「ヒィ〜ルゥ〜トォーっ!!何処行ったーっ!!あのガキ皇帝ーっ!!」

ばたばたばたばた術士が駆ける。
ばたばたばたばた陛下を捜し。
不敬罪ギリギリ言葉の裏に、密かな想いもあるけれど、
一国の主じゃそうもいかん。
ばたばたばたばた術士が駆ける。
陛下の姿は、何処にも見えず。二人の姿は霧の中。

「…最近クラックスも随分必死に走るようになってきたわね…。」
「……まぁ…しょうがないとは思うんだけど…。」
「とか言いつつ毎度ご協力ありがとね♪」
「う…うん。」

ぱたぱたぱたぱた陛下が駆ける。
とことことことこ術士も駆ける。とことことことこ小さな術士。
霧に隠れて町中駆ける。先輩術士はあさってへ。
ぱたぱたぱたぱた陛下が駆ける。
とことことことこ術士が駆ける。とことことことこ小さな術士。
小さな術士は気付くのか?先輩術士の、小さな嫉妬…。

「と…もうこんな時間か…。」
「なんだかんだでクラックスが来てからすぐ戻るんだね。」
「う〜ん。でもねぇ…ギリギリまで楽しみたいじゃない?」
「…そうだねぇ…。」

とことことことこ陛下は帰る。小さな術士は友達探す。
友達探そと振り返る。代わりにいたのは先輩術士…。
それは果たして気のせいか?こめかみぷっくり血管浮かぶ。

…いや、こめかみ以外の所にも結構浮いていたかも知れない…。

「…げ……クラックス……。」
「サァ〜ジィ〜タァ〜リィ〜ウゥ〜スゥ〜?毎度毎度やはり貴様か〜?ん〜?」

ばたばたばたばた術士が走る。バリバリカミナリ撃ちながら。
とっとことっとこ術士が走る。迫る怒号とカミナリ避けて。
ほんのりほのぼの剣士が二人。一人は大きな大剣を背負い、
一人は青白い手に刀提げ、見てる楽しい逃走劇。

「……楽しそう。」
「うーん。クラックスさんも大人気ない…。」
ソウジとリオル。そろそろサジタリウスが陛下逃亡の手伝いを終える頃と思ってきてみれば…。
「……訓練の時間まで続く?」
「続くでしょうねぇ…上手くまけなかったらの話ですけど。」
そんなわけで、その直後にサジタリウスが逃げ切るのを待たずに二人は合同訓練へ…。
その前に、ソウジの喀血忘れずに。
「あ゛…ざ…先に行っでいて良いですよ…。」
「…………でも…。」

おろおろおろおろリオルは困る。
にこにこにこにこソウジは笑う。
血を吐きながらじゃ帰って恐い。濁点混じりじゃ帰って不安。
リオルが困り果てた頃、人気の皆無な街角で、笛の音一つ響いてた。

ヒラヒラヒラヒラ落ち葉が舞う。ふるららふるらら龍笛響く。
誰もが聞き入るその音色。知人他人も足を止め、
ある人それに聞き惚れて、哀しき調べに想いをはせる。
笛の音止めて思うのは、守れなかった最愛の人…。

「…また、ナディールのことか?」
「おや、クラックスじゃないですか。また逃げられましたか?」
「…悪かったな…。」
ここ最近機嫌の悪いクラックス。さっきがさっき仕方がない。
愚痴をこぼす相手を笛の音頼りに捜し当てたと行ったところか…。
「最近妙に必死ですね。」
「…まさか。」
しかし話してもしょうがない。そう思って背を向ける…しかし…。
「サジタリウスに嫉妬ですか?」
「なっ…まさか…。」
「顔に出てますよ〜。フフフ…。」
真っ赤な顔でむっすりかえすクラックス。魔術士団長タウラスにゃ、何を言っても多分無駄。

無駄だと解っちゃいるけれど…。
「養子の件。断られたそうだな。」
何か言わなきゃ気が済まない。
「おやまぁ…何処で仕入れてきたんですか…?」
「アイツがリオルに話していたのをな…。」
「ああ良かった。彼ならそんなに言いふらさないですねぇ。」
タウラスはそう笑って立ち上がる。その時垣根の向こう側。青い影がバサバサドタドタ。

「……い…今のって…ぇ…?」
「…フォックスとエアだな…。」
空を駆けてく青い影。街を駆けてく蒼い影。引きつった、笑みを浮かべて去る団長。
その後必死の形相を連想させる怒号が町中を駆けた。
翌日、タウラスがサジタリウスを養子に誘った件と、最近落ち着きつつあった
サジタリウスがタウラスとナディールの息子という説が再び涌いたのは言うまでもない…。

で、結局年には勝てず(笑)バテバテになって戻ってくる宮廷魔術士団長。

「油断も隙もないですねぇ…。まぁ、あの子は今結構満たされているらしいですよ。
 望む物は得た。これから望む者も、手に入れる手段があるとね。」
物を者と変えたのに、クラックスは気付いたか。焦りの色は明白だった。
「だ…だから何だ…?」
「貴方も頑張らないと取られてしまいますよ〜♪」
そう言って、笑って去ってくタウラスの背中を見送ったクラックスは、暫く動けなかった。
ちなみにその後また必死の形相を連想させる怒号が町中を駆けたとか駆けなかったとか…。

「手に入らなくたって良い…せめて…長く一緒にいたい…少しでも……長く…。」

何を思ったか、その日、時間に細かい彼が、職務時間の直前に、
人気のない場所で一人空を仰いでいるのを見たのはほんの少数。
その時彼の顔をみることかなった者は全くの皆無…。

キラリキラリと剣が舞う。キラリキラリと剣が飛んだ。
見習いみんなで腕競う。されど皆の瞳は一人にそそぐ。
薄い黄土の髪と漆黒の瞳。一際目を引く大きな剣。
小さな術士はしかと見た。波打つ剣と輝く軌跡。
いかな物かと気に掛けた、その剣は神々しささえ持っていた。

「勝者、リオル!!」

「おい…あいつ…まだ全勝だぜ…?」
「使う武器自由って聞いてアイツ真っ先にあの剣持ってきたよな…。」
周囲のざわめきは嫌でもサジタリウスの耳に入った。
感心する者。粋がって毒づく者。中には遅刻した癖に等、様々な言葉が耳に入ってきた。
無理もない。新米の中では最も経験の浅いリオルが、
実戦経験すら持っている者達をことごとく連破しているのだから。

剣のお陰ではない。むしろあんな剣で良く…と言った方が良い。
あの時大きく見えた剣は実際大剣としては少々大きい程度のものだったが、
未だ成長期の直中のリオルが使うにはまだ大きいように見えた。
結局の所、フリーファイターや重装歩兵達も加わったこの訓練の話題はリオル一人の物になった。

若人二人が空を見る。ふわふわふわふわ雲は行く。
先の喧騒何処へやら、二人の居る場所至って静か。
アバロン城壁塔の上。そのまた上の屋根の上。
誰か居るなど思いもしない。ここはリオルのお気に入り。

「…リオル凄いね…。」
「……自分でも意外…。」
のんびりと屋根に寝そべり空を仰ぐ二人。
「…一体どんな生活してたの?」
「ん〜…ティルさんの世話になる前はアルマと剣の稽古してたな…。」
「アルマ?」
「…うん。アルマノス。」
その名前がメルー地方固有の物だとすぐに解った。
「砂漠のとこ住んでたの?」
多分メルーと言ってもリオルは解らないと思う。リオルは肯定の意を示す。

(……それがまた何でティルピッツの船に…メルーから来たロンギットまで単独で?
 いや、あれだけの腕前があれば…でも三年くらい前の話だったよなぁ…?)

「その後一年くらい…アルタンさんの世話になって…。」
起きあがり座り込んで考えていたサジタリウスに更に横殴りの如き衝撃が加わる。
(一体何者なんだコイツは〜っ?)
もうじき一年ほどの付き合いになるがサジタリウス。月に一回はこう思う。
赤の他人ならほぼ毎日こう思うことだろう。

「そ、そう言えばさ、その剣凄く大事そうにしてるけど、何か思い出でもあるの?」
リオルの目を引く特徴。薄い黄土色の髪。ヤウダでさえなかなか見られないような漆黒の瞳。
そして何より、その剣だった。握りの所に刻まれた文字は…デイブレード。
「…アルマに拾われたときあったんだって。」
「あった?」
「何か…僕のいた村…魔物に襲撃されて…誰かが連れだしたんだろうって。」
「え…。」
襲撃。嫌な記憶が蘇る。未だ拭い切れていない恐怖は、
リオルに悪いことを聞いてしまったという罪悪感に変わった。

「なんか、アルマの話だと鍛冶とかしながら生計を立てていたって…。」
「連れだした…人は…?」
「アルマは…教えてくれなかった。」
「そう…なんだ…。」
会話はそこで止まる。冬の訪れを告げる一際冷たい風が吹くまで沈黙は続いた…。
「そうだ…雪が…あった気がする…。」
「雪…ねぇ…メルー砂漠の相当南の方だね…。」
再び沈黙が続くと思われた…。
「空…綺麗だな…。」
ふとしたリオルの言葉。空を見る。確かに、白い雲が日の光で光る、美しい空だと思った。
「まぁ…天高く馬肥ゆる秋って言うからねぇ…。」
ソウジからの受け売りの言葉。そんな頃…リオルが御世話になっているハンニバル邸では…。

「どうしたマール?」
「…兄上…最近太りました?」
「……う゛。」
マールと兄ハンニバルの兄弟漫才が開始されていた…。
「あーやだやだ。こうして中年太りしていくのねぇ…。」
あ、ディアナ夫人が加わって夫婦漫才も同時上演の模様。
「そうだなぁ…姪か甥のためにももう少し鍛えるか…。」
「姪か…甥って?」
「お前。昨日買った指輪は誰宛だ?ん?」
「えー?何々ー?お兄さま結婚するのー?」
あ、マールの妹のルナちゃんまで加わって一家漫才のご様子。
「べべべべべべべべべべべ別に家は兄上が継ぐし別に身分なんてあわわわわわわわわわ!」

誰もそこまで聞いていない…。

「……ディアナ…例の指輪誰宛だか解るか?」
「ええ…思いっきり。」
「もしかして狐のお姉ちゃん?」
「ルルルルルルルナぁー何でそうなるんだよーっ!!てか指輪の件誰に聞いたーっ!?」

その真犯人は…授業中にお酒を飲んだことでこっぴどく説教されていたとか…。
「そーいやマールは指輪選びましたかねぇ…?ヒック。」

こうして…彼等の日常生活は過ぎていく…。