響き渡るのは笛の音。駆け抜けるのは笑顔。その中を舞うのは風。
その中を、その人は楽しむように歩いていた。
だけど、その傍らにいる人が、妙に…違和感があって…。アバロン城壁塔の上。それを見ていた、二人の術士。
一人は見慣れぬ光景に。一人は見慣れた光景に。
4つの眼がそれを見る。
「…ねぇ…タウラス。」
「何ですか?」
にぎわう街を歩くは陛下。その傍らには白い術士。
「何でクラックスが陛下と一緒に歩いてるの?」
「ああ…昨日言っていたでしょう。もうすぐ旅に出ますから…そう言った後は、いつもね。」
「へぇ…。」
のんびりと街を歩く皇帝。その傍らで、守るように共に歩く術士。
皇帝が振り向いて笑う。術士が照れくさげに咳払いをする。
「いつもの事ながら…貴方が横にいると違和感わくわね。」
「……別に…どうせまた一年ぐらい帰る予定は無いんでしょう?」
「あら、今回はそうでも無いわよ。」
「え…。」
「今回はね…。」
強い決意を秘めた手が、しっかり握りしめるのを、白い術士は見逃さない。
知ってる者は数少ない。彼女の中の、小さな悪夢…。
「何だかんだで…あっという間に12年ですもの。そろそろ…ね。」
「ええ、そろそろ跡継ぎも探した方がよろしいかと?」
「ちょっと、それどういう意味よ…?」
類い希なる美貌と器量。されど忘れる事なかれ、今年で皇帝12年。
後半年、待たずに迎える三十路かな。
「さぁ?」
笑って流す宮廷術士。陛下が肩に置こうとした手、あっさりかわして走り出す。
アバロン城壁塔の上。それを見ていた、二人の剣士。
一人は胸に好奇心。一人は胸に小さな嫉妬。
4つの眼がそれを追う。
「ソウジはいいの?」
「ん、何がですか?」
「陛下に、気持ち。」
アバロン城壁塔の上。焦って落ちてく喀血剣士。
アバロン城壁塔の上。それを見ている二人の術士。
「……ソウジもなにやってんだか…。」
「しかしみんな分かり易い人達ばかりですねー。」
「確かにね…。」
「君も含めて。」
「ええええええええええ!!?」
アバロン城壁塔の上。小さな術士の大きな声が、庭中響き渡ったと。
「フフフ…こう言うことに、案外年齢は関係ない物ですよ。」
笑ってからかうタウラスと、何とかしたいサジタリウス。
話題変えよと探したは、いつもと違うかけっこだ。
「…しかしまた…珍しい光景だよねぇ…。」
「確かに。これは貴重ですねぇ。」
アバロン城壁塔の上。片やのんびり見物中。
アバロン城壁塔の上。片や下には喀血剣士。
「……平気?」
地面にめり込む喀血剣士。帝国最強喀血剣士。
されど地面にめり込んで、これでは強さも解らない。
「ご…ごんな先の短い私…夫にじでもしょうが…ないでしょう…。」
濁点混じりの喀血剣士。アバロン最強喀血剣士。
そんな彼等の後ろをば、青い術士が通り行く。
もう片方の塔の上。彼女はそこを見上げてた。
「タウラス様ークラックスはー?」
か細い喉から出る声は、高く二人に届いてた。
「あ、サファイアさんだ。」
「おや珍しい。彼なら今追いかけっこの真っ最中ですよー。」
「え…だってもうすぐ…。」
「今日は立場逆だけどねー。」
「…ああ…そうなの…。」
そう言って、彼女はその場を去ろうと思っていた…が。
「あ、クラックスこけた。」
「えっ…。」
「あらま。」
ぱったり倒れた真っ白術士。待てども待てども…。
「……起きないね…。」
「あー…ちょっとヤバイかも知れない。」
「えーっ!」
慌てて駆けてくサファイアと、それに続いて小さな術士。
それを見ながらタウラスは、微かに微笑むだけだった…。
「良いですねぇ…若いって…。」
「貴方だってまだ良いんじゃないの?」
天から響く若い声。見上げれば、無邪気な青が見下ろして。
「貴方も良いのよ。自分の幸せを探したって。」
「おや…良いのですか?あなたがそんなことを言って。」
「…あの時まで、ずっと姉さんを待っていたのでしょう?
もうすぐ二年になるのよ…姉さんの愛した人が、
未だにうじうじしてるなんて耐えられないわよ。」
「そう…ですか…。」
俯いた術士に、愛想を尽かしたのか、青いイーリスは飛び去っていった。
死んだ恋人。忘れ形見の幻。
愛していたが…否、愛しているが故に…その悲しみは拭われない…。
「ゴメン…君の居ない世界で…幸せになれそうにない…。」
その頃…アバロンの宿の一室。
「最近落ち着いていたのにねぇ。」
「陛下が無理させるからです。」
皇帝、反省色は無し。青い術士は、口を尖らせ言い放つ。
「だっていきなり走り出すんですもの…普通追い掛けるわよ。」
「……それじゃ野犬と一緒です。」
ベッドの上には金髪が、その傍らには二つの青が。
どうにもならない光景に、小さな術士は、なんにもできず。
「ん…う…。」
そんな空気に、彼が気が付き目覚めるのは至極当然のことであろう。
「……またか…。」
「倒れるのはソウジだけじゃなかったんだね…。」
「ああ…最近は奴ほど倒れなくなったのだがな…。」
「…あ、あのさ…陛下と…サファイアさん…。」
「ああ、ほっとけほっとけ。いつものことだ。」
くしゃくしゃ頭を撫でられる。慣れない手つきが、気持ちよい。
そんなとき、女性二人と目があった。
『……………………………。』
『……………………………。』
『クラックスが子供の頭撫でてるーっ!』
「何故それでそこまで驚く!?」
「僕はもう14だ!!」
小さな術士の大きな叫び。それに一同静まって…。
『…………………もう14だったのか…。』
一同揃ったその声に、片隅拗ねる小さな術士。
「あー…解った解った。泣くな泣くなー。」
拗ねに拗ねてる小さな術士。白い術士が慰める。
いつもの日常終わりは近く、いつもの日常恋しくなって、
心が子供に戻るのを、一体誰が責められる?
そして…そんなころ…塔の上からほらけ落ちた喀血剣士は…。
「…大丈夫ですかソウジ…?」
タンプクが手当をしていた。
「……いつものこと…。」
リオルはすっかり慣れていた。
「駄目ですよー慣れちゃあ。いつぶっ倒れて起きあがらなくなるか解らないんですから。」
お酒の入ったタンプクの、その一言は棘のごとく。
「いや…いくらなんでもそれは…。」
涙目になるソウジ。そんな彼等の横を、赤毛の少年が通る。
「有り得なくもないよねー。」
「コっ…コウメイ君までぇ…。」
「泣かない泣かない。」
そう。彼はタンプクの弟君のコウメイ君。
術に関しては兄を凌駕する才能の持ち主でもある。
「そう言えば…兄上出発の準備しなくても良いのですか?」
「ああ…今回は私行かないんですよ。」
「え、あ、そ、そうなんだ。」
その言葉、焦る弟、去る兄貴。
そんなやりとりを見たリオルは…。
「タンプク…お酒臭かった…。」
「ああ…昨日飲んでたからねぇ…やっと理由がわかったよ。」
「へぇ…。」
そうして忘れられてく喀血剣士。
その頃…我らが陛下は…。
「じゃ、サファイア。今度はよろしくね。」
「はい。」
クラックスの体調も良くなって、それぞれ戻るとこだった。
「…陛下。」
「ん?どしたのサジタリウス?」
「今度…誰と行くの?」
「ああ、サファイアと、フォックスと、ソウジとディアナ。」
「あの…。」
言葉が詰まる。だけど…どうしても…。
「駄目よ。今回ばかりは絶対に駄ぁ目。」
言わずとも解る我が儘。それを通して良いほど、今回の旅は甘くない…。
「次は考えて置いてあげるわね。」
「あ…うん。」
そうして…彼女は旅立っていく…。
平穏の時間が終わりを告げようとしている…。
バレンヌ帝国最後の女帝の…最後の旅が始まる…。
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