| 平穏の時間が終わりを告げようとしている…。 バレンヌ帝国最後の女帝の…最後の旅が始まる…。
その少年は馬車の中、ガタガタ揺れる馬車の中、膝を抱えて座ってた。体縮めて座ってた。
バレンヌ皇帝乗る馬車に、こっそり潜るのお手の物。
時々やってはいたけれど、いつも見つかり休暇に参加。
だけど今度はそうもいかん。見つかれば、大目玉では、済まされぬ。
……私は…今だからこそ…あの感情が小さな恋心だったのだと言える…。
彼女が行ってしまう。それは、下手をすれば永久の別れになってしまう可能性は…
彼女の表情を見ていれば誰にでも読みとれる物だった…。
力になりたい…もうチャンスはない…焦りだったのだろうか…今でも、それを少し後悔している…。
後悔しても無駄。あの時に戻れたとしても、同じ事をしなければ、もっと大きな後悔があった…だけど…。
思い出すたびに…もっと力があればと…泣いていた日もあった…。
あの時…リオルが止めてくれなかったのを…怨んだ日もあった…。
それは…彼女が旅立つ前夜のこと…。
こっそり…馬車に忍び込もうとしていたんだ…そしたらさ…。
「サジタリウス…。」
「…リオル…。」
気まずかった。だけど…僕は…。
「……行くのか…?」
「………止めても無駄だからね…。」
こんなセリフ…言うんじゃなかった…。
「そう…だったらさ…。」
渡されたのは…小さな宝石が七色に光不思議な指輪だった…。
「お守り。」
「え…いいの?」
「うん。」
リオルは来ないの?そう言おうとしたとき…。
「僕じゃ見つかるよ。」
ああ…そう言えば…確かにそうだ…。
この時…私はどれ程リオルに感謝しただろう…。
お守り代わりの小さな指輪。しっかり握って馬車の中。
ガタゴトガタゴト揺れる馬車、アバロン旅立ち、ソーモン通ってミラマーへ、
ガタゴトガタゴト揺れる馬車、少年は、皇帝追い掛けひた走る。
ドタバタドタバタ宮廷で、騒ぎはあろうと思いつつ…。
あれからだいぶ経って、あの頃の話も笑って出来るようになってから知ったこと…。
あの日、リオルには随分苦労させてしまっていたらしい。
ドタバタドタバタ術士が走る。小さな術士を探して走る。
ドタバタドタバタ軍師が走る。小さな術士を探して走る。
バサバサバサバサイーリス翔る。小さな術士を探して翔る。
のんびりほのぼの少年剣士。全てを知ってて知らん顔。
それを見ていた純白術士。ツカツカツカツカ歩み寄る。
「……ずっとそんな顔していられると思っていたのか?リオル。」
「………。」
何を言ってもだんまりと、友達約束義理堅い。されど術士に言わせれば、口を割るなど容易くて。
「……タウラスやエアは誤魔化せても私はそうはいかんぞ。」
クラックスの手の平光が舞う。リオルの顔には青筋走る。黒い瞳が動揺する。
「ま、今で無くてもいいがな。」
「……?」
そんな彼等の目の前に…。
「あっ!リオル!クラックス!サジタリウス見ませんでしたか!?
あ〜も〜何処に消えちゃったんだあの子は〜っ!」
「……………………………。」
そのまま去ってくタウラスは、親バカパパのそのまんま。
「あれだけ慌てふためくタウラスなど滅多にお目にかかれないからな。よく見ておけ。」
……慌てふためくタウラス……私も見たかったな…
泣いているのは一度あるけど…慌てふためくのは流石に…。
慌てふためく人々を、静かに見つめてリオルが言う。黒い瞳は、射抜くがごとく。
「……クラックス…いたんだろ?」
「ああ。いたぞ。」
「止めに入らなかったな…。」
「…一緒にいたい…その気持ちは…良く解る…いけないこと解っていて尚行きたいと言う気持ちも…。
ま、だからといって、私が行けば、アイツと同じ大目玉を奴より早く貰うのは目に見えているが。」
「え…。」
「実を言うとな…私も、アイツと同じ考えだった。」
そう。だってそれ以前に…。
「アイツに馬車の事を教えたのは私だ。」
「えっ!?」
リオルが後にこう言った。意外すぎる事実だったと…。
「…私より…アイツの方が使える。少なくとも、戦場ではな…。」
このやりとりを…リオルから聞くことが出来たのは…もう…彼がいなかったからなのだと思う…。
いたのなら…リオルは絶対に言わなかっただろう…。
…そして…クラックスが言ったそんな言葉の理由を…当時の私が…知る由も無くて…。
私が陛下にこっそりとついていったのがばれた頃…もう追いつけない場所まで来ていて…。
私の尾行が陛下達にばれたのは…エイルネップについたその日だった…。
当時14の私が危惧していたような、当時32のクラックスが危惧していたような、
大目玉というのは…実は全然なかったりすることが、私にとっては恐怖だった…。
「…で…サジタリウス…この三日間ずっとつけて来ていたの?」
槍で手の平を叩くディアナがこの上なく恐く感じた…。
「う…うん。」
「ヒルトどうするのこの子?」
フォックスにほっぺた引っ張られながら尋問されている気分だった…。
「街の宿でお留守番させるしか無いでしょ。今更引き返せないわよ。
それに、明日あたりタウラスあたりが来ても可笑しくないんじゃない?」
陛下は既に諦めているみたいだった…。
「にしても…どうやって抜け出したのかしら…。」
サファイアの口ごもったセリフの一つに、クラックスの名が出ていたのを聞き逃さなかった当たり、
私はまだ余裕があったのだろう…。
「まぁ、おおかた霧隠れで隠れ仰せたんでしょ。でもまぁ…あそこに連れてく訳にもねぇ…。」
彼女が…ある一点を見て、その後こっちを向いて笑った。
彼女が見たある一点…そこにはエイルネップの名物とも言える高い塔。
「……凄い群…。」
その踊り場にいるのは有翼のモンスターの群。ディアブロ、フォージウィルム…等々…。
「そ、あの踊り場に出たら一斉に来るでしょうね。」
「村は…?」
「ええ、縄張りに入らない限りは平気よ。いつまで続くかは解らないけどね。」
「じゃ、良い子にお留守番しててくれる?」
「僕は…もう…。」
子供扱い。多分…あの日を迎えなくとも…ずっとそうなのだろう。
「あら、あなたがそこそこの戦力になるのは認めるわよ。
霧隠れの腕前考えれば回復とかの補佐役にはあの群相手でも十分。」
「じゃあ…何で…?」
「男の子。だから。」
「はぁ?だって、ソウジは……あれ?」
……案の定吐血していた…正直…これなら自分の方が…と、思ったのもまた事実。
その時、侍の指には不似合いな指輪を見つけた…。
「ああ、ソウジには予防策とってあるから。ね。」
指輪が、恐らくそれなのだろう。そうでなければあんな指輪つけない。
「そうそう…いきなりマルザワーン陛下が誘惑くらったときには焦ったわよ。
タウラスが速攻で治してなかったら…ああ嫌だ嫌だ…。」
「そう言うこと。ね、もし君がかかったら…悪いけど場合によっては斬るわよ。」
……目が笑っていない…多分…マジだったんだろう…。
そうして…私は待つことになった…危険だと言われて、行くなと言われた塔の真下で…。
常に上を見て、降ってくる有翼モンスターの死骸を避ける。
ここで死んだら…情けなさ過ぎただろうね…。
そして…何となくで村人から聞いた話。既に入り込んでいたアマゾネス…テオドラの話…。
陛下には…兄がいた。村一番の剣士だった。強かった…強すぎたから…ロックブーケに操られ、
言われるままに神殿の守護者と戦って死んだ…。
止めようとした彼女は…一度殺されかけたそうだ…実の…兄に…。
強い決意は…兄への想い故…か。
そんなことを思いながら…私は積み上がった魔物の死体を見ていた…。
とうとうその場にいられなくなり、塔の裏側へ回った…
…後悔するだけ無駄…だけど…あの時大人しく宿に戻っていれば…。
見つけてしまったのだ。降りることは出来ても、登ることは出来ない高さにある入り口。
その足場と言わんばかりに横たわる有翼の魔物。
まるで…誘うかのように…それに…従った…。
あの場にいたみんなが言うんだ。それで良かったんだって。
でも…やっぱり…後悔せずにはいられない。してはいけない…解っていても…。
そして…今私は…彼女の墓前にいる…だから…あの日を思いだしたんだ…。
「……僕も…もうすぐ陛下に追いつく年になったよ。」
時が流れ…大人になっても…未だ拭えない…。
「まだ陛下の元に行く気はないし、行っても…きっと陛下を巡る三角関係に、
僕は永遠に割り込めないんだろうね…。」
自分があの場にいなければいけなかった。あの場にいた、誰もがそう言う。
だけど…あんな別れ方をしてしまうと…耐えることは出来ても…どうしても…拭うことは出来なくて…。
あの日のことを…僕は絶対に忘れない…。
あの日の傷は…痛みは収まっても…癒えることは…決してない…。
それでも…生きていける。それは…やっぱりあなたのお陰なのだと思います…。
初めてであったあの日の後も…僕の命は…今なお救われ続けているのだから…。
|