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今夜の番組チェック

 

ナディール

「明日の朝、私は辺境備隊としてアバロンを発つ。きみは里に帰るといい。私は4,5年は戻って来れないだろうから。これでお別れだ、ナディール」
「そうね、そうするわ、タウラス。今まで楽しかった、ありがとう」
会話らしいものはそれだけだった。タウラスとナディールは二人で静かに紅茶を呑んだ。

目が覚めると、時計は午後を指していた。
まったく気付かなかった。
空を遮られることを嫌うナディールの、カーテンのない窓の外に広がる灰色の世界はまるで自分の心の中のようだと思った。
ナディールの体調は最近特に悪化してきていた。体がだるい。
朝、アバロンを去っていった恋人を見送るつもりは端から無かった。昨夜の後ろ姿だけで十分だった。もう一度、タウラスの背中を見たら、今度は目覚めが遅くなるだけではなく、身体中の力が抜けてしまい動けなくなってしまっただろう。
ゆっくりとベッドから起きあがったナディールに咳の発作が襲う。
「ナディっ。寝てなさいよ、無理してはダメよ」
同じイーリス族の娘、マイリーンが隣の部屋から駆けつけた。ずっと一緒に育った娘、妹のような存在だった。彼女は、ナディールが里に訪れた皇帝一行のなかの魔術師、タウラスに恋をし、彼を追ってアバロンに降りる際も行動をともにしてくれた。
「ナディ、このごろ咳が酷いわ。タウラスは去っていった。もうここには用はないはず、里に戻りましょう。ここの空気は汚れすぎてるわ。あなたの体調はここにいてはよくなってゆかない。お願いだから・・・」
私を心配して私以上に苦しむ、マイリーン。私は大丈夫だから。いろいろごめんね。
ナディールは知っていた。見てしまったから。
タウラスが警備隊に志願したのは、マイリーンの言葉のためだ。
彼女はこっそりと呼び出したタウラスに、
「アバロンにいてはナディールは死んでしまうわ。貴方はあの子を殺す気なの?早く里に戻さないと・・・。お願いだから、彼女を説得して」
と言った。
涙ながらにタウラスに訴えたマイリーン。私はあなたの言葉に頷こうとしなかったから。
数日後、タウラスは警備隊員に任命された。優しいあの人は私の性格をよく知っていたから。

私はマイリーンを責める気にはなれなかった。

少しだけお腹がすいた、と言えばマイリーンは喜んだ。
ベッドで食べればいいと言う彼女を振り切って、私は居間に向かった。昨晩タウラスといっしょに過ごした場所。なにかに呼ばれてる気がした。
彼が座った椅子の上に、それがあった。
木彫り細工の首飾りだった。
革紐に古ぼけた鳥の姿を象った飾り、それは彼の祖父が作って与えたものだと聞いていた。タウラスはお守りだと言った。
『苦しくてどうしていいのか分からなかったとき、握りしめていたら道が開いたんだよ。私は今まで何度もこれに救われたんだよ』
きみは笑うかい?と、見せたはにかんだ笑顔は、子供のように純粋で大好きだった。
これは、彼を救う大切なお守り。
ナディールは部屋を飛び出していた。
台所から聞こえたマイリーンの歌う故郷の甘い旋律が心地よかった。

危険な地に赴くタウラスに一刻も早く追いついて忘れ物を渡したいのに、雨が邪魔をした。ついに降り出してしまった雨の勢いは予想以上に強くなっていた。
雨が身体を打ちつける。
雨の重みが羽を鈍らせた。
私の羽であったら楽に追いつけると思っていたのに、私は飛べなくなっていた。
この丘をほんの一つ越えた当たりに一行は進軍しているはずだけど、悔しいけど私は一本の大木の根元に降りていた。
振りつける雨のためだと思っていたけど、木が雨を遮ってくれるのに呼吸は少しも楽にならなかった。
体が熱い。
体が寒い。
蹲ってナディールは握りしめてきた指を開いた。
タウラスの首飾り、大きな翼を広げた鳥の彫り物。センスの良いものだった。その鳥は実在するものではなかったけど、ナディールはその姿を美しいと思っていた。
でもなにかが違う。
記憶のものとどこか違った。
革紐。革紐が新しくなっているんだ。紐には今まで無かったビーズも通されていた。ビーズは鳥にも合う綺麗なオレンジ色、でもそれは娘が持つような色で・・・。
ナディールは、震える吐息でうふふと笑い出した。
「私はなんて愛されてるのだろう!」
これは私が持っていてもいいのだと、確信だった。

・・・さぁ、帰ろう。なにも言わずに飛び出してきたのだ、マイリーンはかんかんに怒っているだろう。でも優しいあの娘は、きっともう一度シチューを温めてくれる。
今日はたくさん食べて力を付けて、明日二人で里に出発しよう。
里に戻って、早く体調を直して『もう私は大丈夫だから』と、彼に大事なお守りを返すのだ。

・・・。
もう少しだけ休んでから・・・。
もう少し休んだら、
きっとまた飛べる・・・





私はもうマイリーンにもタウラスにも会うことは叶わなかった
でも
私の最期は幸せな気分につつまれていた・・・



よるさんにかなりわがまま言って書いていただいた小説ですっ!
ビバ!悲恋!!…そー言えばキャラにまともな恋させてないなぁ…。
タウラスさんとナディールさん…共にいる時間を愛し合ってそしてその後の別れ。
本編では13年も後にタウラスが知る悲劇…こちらの彼はいつ知ることになるのでしょう…?
私としては二人がチカパ山で知り合った後、ナディールがもし一緒に来ていたらと言うのがこのお話だと思います。
ちなみに時間軸は私が決めさせていただきました。時間的にクリームヒルト陛下即位前ですね。
さーて、本編でも悲恋書かねば…(キャラにとっては鬼のような澄香でした)

本当に、有り難うございます。m(_ _)m